2020-10-22 内容を一部追加・修正しました。緊急事態宣言があけて、街に人が戻ってきています。当院では、緊急事態宣言中はお薬の処方日数を長くしたり、電話での受診に切り替えたため受診される方が減少しましたが、緊急事態宣言が解除されてから徐々に患者さんの受診が戻りつつあります。受診される患者さんの中には、政府により人との接触を極力減らすことが求められる中、長い自粛期間中のためほとんど外に外出しなかった方もあり、健康状態が以前よりよくないと訴えられる方もいらっしゃいます。明らかに運動不足が原因と思われる方があり、運動を行うことで健康を維持することの重要性が再認識されます。一方、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染予防のため、マスクを着用される方も多いですが、暑い時期の運動中のマスク着用は熱中症の危険性を高める可能性があります。今回は、そもそもどうしてマスクを着用しないといけないのか、とくにwithコロナ時期の今、その意義について考えてみようと思います。関連記事 【withコロナ】マスク着用しながらの運動で熱中症予防ができるのか、検証してみました。関連記事 【withコロナ】マスク着用とソーシャルディスタンスでCOVID-19を抑制できるのか?国とWHOのマスク着用の見解は?新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止のために、外出時にはマスク着用が定着してきましたが、そもそもマスクを着用する意味は何でしょうか?特に今咳がある人のマスク着用は感染拡大防止のために当然としても、無症状の人がマスクを付ける意味は何でしょうか。自身に感染しないためでしょうか?それとも他人に感染させないためでしょうか?国とWHOの見解は次のとおりです。1.専門家会議の提言「新しい生活様式」の中でのマスク着用の位置づけ5月4日に新型コロナウイルス感染症専門家会議から「新しい生活様式」の提言がなされました。それを受け、実践例がウェブサイトで公表されています。そのうちマスクに関する部分を一部を抜粋します。感染防止の3つの基本:1身体的距離の確保、2マスクの着用、3手洗い外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用「症状がなくても」の部分はわざわざ下線が引いてあります。しかもマスク着用は手洗いよりも優先順位が高く、マスク着用を重視していることがわかります。これだけ読むと、ずっとマスクをし続けないといけないように感じます。その後、熱中症対策も必要だと言うことで出された、「熱中症予防行動のポイント」の中ではこのように記されています。・夏期の気温・湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。このため、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、熱中症のリスクを考慮し、マスクをはずすようにしましょう。・マスクを着用している場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心掛けるようにしましょう。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、適宜、マスクをはずして休憩することも必要です。この2つを読み比べると、マスクはし続けたほうがいいけれど、暑い時期には熱中症のリスクもあり、マスクを常に付ける必要はないと解釈できます。でも、そもそもなぜマスクをしないといけないかが記載されていません。(検索した限りでは見つけられませんでした。もしどこかに記載があれば教えて下さい。)2.WHOのマスク着用の見解一方、WHOの見解はこれまで「症状がなければマスク着用は必要ない」とのスタンスでした。しかし、COVID-19感染後の、まだ症状が出ていない潜伏期間中にも感染性があることがわかってきたことから、この度見解を以下のように変更したようです。6月6日時事通信「広範なマスク着用を WHOが修正、布もOK 新型コロナ」新型コロナウイルス感染拡大阻止のためのマスク利用の指針を改定し、流行地では公共交通機関利用時など人同士の距離を取ることが難しい場合、他人に感染させないためにマスク着用を推奨すると表明した。手作りの布マスクでも、正しく作成すれば問題ないという。 WHOは従来、自覚症状のない人も含めた広範なマスク利用は「効果が明らかでない」と否定的だった。現在も十分なデータがないとする姿勢に変わりがないという。しかし潜伏期間中に感染する可能性も判明してきたことから、「発症前の人から感染するリスクを減らせる」などの利点があると、見解を修正した。 布マスクは、それぞれ異なる材質で最低3層の構造にすることが望ましいという。WHOは、流行地では60歳以上や持病がある人の場合、医療用マスクを着用することを勧告した。いまではWHOもマスク重視のスタンスです。 これらから、WHOは無症候の感染者から感染拡大を広めないためにマスク着用が必要と考えていることがわかります。特に他人に感染させないためにというところがポイントです。自分がかからないためにマスクをするのではないという点を理解しましょう。変化してきたマスク着用の意義新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が出現する前と、今とを比較してみると、マスク着用の意味付けは変化しています。SARS-CoV-2出現前では、「マスクは今咳がある感染者がこれ以上感染を拡めないためにおこなうもの」という認識が一般的で、咳などの呼吸器症状がない人がマスクを着用する意味はあまりないとされていました。SARS-CoV-2の出現の当初もそうだったと思います。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広まり、無症候の感染者(不顕性感染といいます)が数多くいることがわかり、発症する前から飛沫感染を引き起こすことが判明しました。しかも発症2日前の潜伏期間が最も感染力が強いという報告もあります。(これは感染力のピークが発症後にある季節性インフルエンザのような今までの呼吸器感染症とは全く異なっており、多くの医療者が「潜伏期間に感染力が強いわけ無いでしょ?」といった感じで、にわかには受け入れがたい状況でした。)こういった状況から、感染拡大を防ぐためには、呼吸器症状のある人は無論、無症候の人も含め全員マスクの着用を推奨するという考え方に変化してきました。(まだヒトがマスク着用で感染拡大が防げるかどうかは明確になっていませんが、マウスを用いた動物実験ではマスクに見立てたフィルターを使うと感染予防に効果があったとの報告もあります。)つまり、マスク着用の意義は、「症状がある人が感染を拡めないため」・「症状がない人もCOVID-19にかかっている可能性があり、他の人に感染させないため」の2点と考えられています。これまで、「マスク着用によって、自身へのSARS-CoV-2の感染を予防できるかどうか」ということは、はっきりとした結論が出ていませんでした。2020年10月東京大学から新しい研究成果が発表されましたので内容を引用します。東京大学の「SARS-CoV-2の空気伝播に対するマスクの防御効果」に関する論文発表2020年10月21日、東京大学医科学研究所の河岡教授らのグループから、「新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果」の研究成果が公表されました。プレスリリース: https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00042.html 内容をサイトから引用します。本研究では、バイオセーフ―ティーレベル(BSL)3施設内に感染性のSARS-CoV-2を噴霧できるチャンバーを開発し、その中に人工呼吸器を繋いだマネキンを設置して、マネキンに装着したマスクを通過するウイルス量を調べました。その結果、マスクを装着することでSARS-CoV-2の空間中への拡散と吸い込みの両方を抑える効果があることがわかりました。また、N95マスクは最も高い防御性能を示しましたが、適切に装着しない場合はその防御効果が低下すること、また、マスク単体ではウイルスの吸い込みを完全には防ぐことができないことがわかりました。感染性のSARS-CoV-2に対するマスクの防御効果とその効果を十分に発揮する条件が明らかになったことで、適切なマスクの使用方法への啓発に役立つことが期待されます。適切にマスク着用を行えば、自分へのSARS-CoV-2の吸い込みを軽減でき、感染防御効果が期待できるという報告です。今回の研究成果は「実験室内のチャンバーの中」の実証なので、日常生活の空間とは若干の違いが生じるとはいえ、実際にSARS-CoV-2を使ってマスクの感染防御効果が実証されたことが大きな意味を持ちます。マスク着用の効果を過信しすぎることなく、丁寧な手洗いを行うことやソーシャルディスタンスを保つことなど、複数の対策を組み合わせることで、COVID-19の広がりを抑え込むことができると考えられます。まとめCOVID-19予防の観点から、マスク着用の意義をまとめると以下のとおりです。・マスク着用の一番の目的は、他人に感染を拡めないためである。・咳がある場合だけでなく、たとえ症状がなくてもマスク着用が勧められる。(不顕性感染の人からの感染予防のため)・ただし、夏場はマスク着用により熱中症のリスクが高くなる可能性があり、他人と十分な距離が保てる場合は外してもよい。・これまでマスク着用により自分への感染が予防できるかどうかはまだ結論が出ていなかったが、2020年10月の新しい研究成果によると適切なマスク着用により感染防御効果が期待できると思われる。では、夏場の熱中症を避けながらマスクをうまく着用するにはどうしたらよいか、次回のブログで考えてみようと思います。
国とWHOのマスク着用の見解は?
1.専門家会議の提言「新しい生活様式」の中でのマスク着用の位置づけ
外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用
・マスクを着用している場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心掛けるようにしましょう。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、適宜、マスクをはずして休憩することも必要です。
でも、そもそもなぜマスクをしないといけないかが記載されていません。(検索した限りでは見つけられませんでした。もしどこかに記載があれば教えて下さい。)
2.WHOのマスク着用の見解
新型コロナウイルス感染拡大阻止のためのマスク利用の指針を改定し、流行地では公共交通機関利用時など人同士の距離を取ることが難しい場合、他人に感染させないためにマスク着用を推奨すると表明した。
手作りの布マスクでも、正しく作成すれば問題ないという。
特に他人に感染させないためにというところがポイントです。自分がかからないためにマスクをするのではないという点を理解しましょう。
変化してきたマスク着用の意義
東京大学の「SARS-CoV-2の空気伝播に対するマスクの防御効果」に関する論文発表
まとめ