胃・十二指腸潰瘍は日本人にとっては非常にポピュラーな病気の一つです。長年この病気で悩んでおられる方も結構沢山いると思われます。 潰瘍とは、粘膜や上皮が損傷をうけ、欠損する状態を指します。これが胃や十二指腸で起こったのが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍です。
一番多い症状はみぞおちのあたりの痛み(心窩部痛)です。とくに、 空腹時に痛みが強くなり、食事をとると軽減するのが特徴です。また、潰瘍が深く、出血を起こした場合は、タール便(黒色の便)や黒色の吐物を嘔吐することもあります。出血の量が多くなると貧血になります。このため血圧が低下したり、少し動くだけで息切れやふらつきを生じることがあります。
『胃潰瘍は夜つくられる』という言葉があります。これは胃酸と胃・十二指腸潰瘍との関係を言い尽くしてあまりある言葉だと思います。生理的に人間の胃の中のpHは夜になると低くなってきます。夜は胃の中に食べ物が入ってこないため胃酸が中和されないということも一つの原因ですが、人間の体は夜になると迷走神経緊張状態になり、そのために胃酸の分泌が増加するわけです。
潰瘍は胃酸が多いだけで出来るわけではありません。それを説明するためには、Shayの天秤理論がわかりやすいと思います。 胃は食物を消化するために胃酸を分泌します。胃酸の強い酸性は胃粘膜を傷つけてしまうので、胃粘膜を守るさまざまな仕組み(防御因子)があります。
胃壁に対する防御因子と攻撃因子を天秤にかけ、攻撃因子が勝てば胃の粘膜防御機構が破壊され潰瘍が出来るというわけです。攻撃因子としては胃酸、ピロリ菌、飲酒、喫煙、ストレス、虚血、消炎鎮痛剤、ステロイド、ペプシン、ガストリン、胆汁酸、膵液等があり、防御因子としては粘液、重炭酸、一酸化窒素、血流、プロスタグランディン、 上皮細胞増殖因子、上皮細胞の再生産(細胞回転)等が挙げられます。
また、脳梗塞の予防や痛み止めとして使われる非ステロイド系消炎鎮痛剤も胃酸分泌を増やし、潰瘍の原因となります。
診断は内視鏡検査を行います。潰瘍の深さと治り具合を評価します。出血性胃・十二指腸潰瘍の場合は、内視鏡で止血術を行うこともあります。また、一部の胃がんは潰瘍を形成し、良性の胃潰瘍と鑑別が必要となることがあるため、病理組織検査(組織を採集して、顕微鏡にて悪性所見がないかを検索する)を行います。
また、ピロリ菌検査を行うこともあります(詳しくは「
ヘリコバクター・ピロリ感染症について」を参照ください)。また、大きい潰瘍の場合は、治療効果の確認や胃がんの鑑別のために複数回の内視鏡検査が必要です。
昔は、潰瘍ができてしまうとなかなか治らずに胃や十二指腸に穴が開き、手術を余儀なくされることが多くありました。しかし、胃酸分泌抑制剤が開発されてからは、手術適応となる症例は珍しくなりました。
現在ではプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーといった胃酸分泌を抑制する薬剤と胃粘膜保護作用のある薬剤の注射・内服でほぼ治ります。ピロリ菌が原因の場合は再発を起こしやすいため、除菌療法が必要となります(詳しくは「
ヘリコバクター・ピロリ感染症」の除菌療法の項目を参照下さい。)
攻撃因子の胃酸を中和することで、潰瘍の発生を抑えることができます。牛乳やヨーグルト、豆腐などを摂るとよいでしょう。お粥や、うどん、白身魚の煮付けや柔らかく煮た野菜なども粘膜に優しい食べ物です。 逆に、脂っこい食品や香辛料を多く使った料理、アルコールやコーヒーは避けるべきです。暴飲暴食をせず、腹八分目を心がけましょう。。
また、ストレスも潰瘍を悪化させます。適度な運動や十分な睡眠をとり、あまりくよくよ神経を使わないようにしましょう。