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~時間栄養学を生活に活かそう~ (4)腸内細菌叢の日内変動と病気について

2020/3/16
バランスのよい腸内細菌叢
 今、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)が話題になっており発症しないよう十分な対策が必要です。別のブログにも記載したとおり、予防にはしっかりした手洗いと、咳エチケットが重要です。

 手洗いが不足すると、新型コロナウイルスやインフルエンザ以外にもウイルスや細菌の体内への侵入を許してしまい、胃腸炎を生じることがあります。3月に入ったこの時期でも、胃腸炎症状で外来を受診される方が多いです。よく「腸の悪玉菌が増えてしまうので善玉菌が負けてしまい、腸炎をおこしている」といわれますが、そもそも腸内細菌とはどんな役割をしているのでしょうか?
今回の記事は、私達の腸管の中に住み着いている細菌(腸内細菌叢)と病気の関係、さらに体内時計により起こる腸内細菌叢の変化について考えようと思います。

腸内細菌叢と病気の関係

ヒトの腸管の中には100種類以上のさまざまな細菌が40兆個以上住み着いています。この腸管内に住み着いた多種・多様な細菌のグループのことを腸内細菌叢と言います。人の体の免疫システムは腸内細菌叢から様々な作用を受けています。
このようにヒトの腸管内に定着している細菌が、多くの臓器に相互に影響を及ぼしていることがわかってきており、ここ数年で腸内細菌叢に関する研究が非常に盛んになってきています。

(1)短鎖脂肪酸と腸内細菌叢の関係

食事で食物繊維やオリゴ糖を摂ると、腸内細菌叢の働きで腸管内で発酵・分解され、短鎖脂肪酸が作られます。この短鎖脂肪酸の増加は食欲の抑制やインスリン抵抗性の改善(少ない量のインスリンで効率よく血液から細胞内に糖分が取り入れられる状態)に繋がります。また短鎖脂肪酸の中でも酪酸は、制御性T細胞の誘導を起こすことで、体内の免疫系の調整に役立っています。また短鎖脂肪酸は腸管内を弱酸性に保つため、腸管免疫の制御にも関係しています。

(2)腸内細菌叢と腸管炎症の関係

炎症性腸疾患(狭義の意味でクローン病と潰瘍性大腸炎)は、腸管免疫の異常により腸管で慢性炎症が生じる難病です。炎症性腸疾患では腸内細菌叢のバランスが崩れ、存在する菌種の種類が数が少なくなることが知られています。また、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬を使用した際に、腸内細菌叢が乱れ腸炎を起こすClostridium difficil感染腸炎は、再発を繰り返しやすく治療に難渋する病気です。健常者の糞便から得た腸内細菌をClostridium difficil感染腸炎の患者の大腸に移植する便移植療法が行われるようになり効果を上げています。潰瘍性大腸炎の患者に対して、抗菌薬投与後に便移植療法を行ったところ症状の改善があったとの報告もあります。またクローン病では Clostridium 属の減少による腸内環境の悪化が病態と関係があると考えられています。このように、腸内細菌叢の多様性の低下が腸管炎症と関係があると考えられます。

(3)腸内細菌叢と腸脳相関

腸管運動と脳は迷走神経を介して密接につながっており、これを「腸脳相関」と言います。強いストレスがかかると急に腹痛や下痢を生じる過敏性腸症候群という病気がありますが、これは「腸脳相関の乱れ」からくる疾患とも言えます。腸内細菌叢と腸脳相関の間にも関連があることがわかってきています。

(4)腸内細菌叢と神経疾患の関係

パーキンソン病の人は便秘を生じやすいことが知られていますが、短鎖脂肪酸の減少が病気を悪化させる要因と考えられており、腸内細菌叢との関係が示唆されています。その他、うつ病や慢性疲労症候群の方の腸内細菌はそうではない人と比較して腸内細菌叢のバランスが変化していることが知られております。

(5)腸内細菌叢と慢性腎臓病の関係

マウスの実験では慢性腎臓病を引き起こす尿毒素であるインドキシル硫酸やトリメチルアミンNオキシド(TMAO)は、腸内細菌叢が変化することで増加することもわかってきました。腸管と腎臓の間にも「腸腎相関」があると提唱されてきており、腸内細菌叢の変化は慢性腎臓病の発症とも相関があると考えられています。

(6)腸内細菌叢と心臓血管病の関係

TMAOの増加はマクロファージへのコレステロール蓄積を増加させ,血管内のプラークからのコレステロール引き抜きを減少させることで動脈硬化を進行させることが知られています。またTMAOは血小板凝集能を増加させることで血栓形成を促進します。腸内細菌叢の変化は心臓血管病の発症とも深く関与しています。

体内時計が腸内細菌叢に与える影響

これまで腸内細菌叢の変化が様々な病気に関係していることを記しました。時間栄養学について過去に記したブログにもるように、体内時計には親子の時計が存在します。親時計は脳下垂体の視交叉上核にあり、体内の末梢組織にはそれぞれ子時計が存在しており、腸管にも子時計が存在しています。最近の研究では、腸内細菌叢が体内時計の働きによって日内変動を生じていることがわかってきました。これについて基礎的な研究ではありますが、ご紹介したいと思います。

(1)日内変動をおこす腸内細菌叢

日常の食事の内容が変化したり、運動不足などさまざまな要因で腸内細菌叢の構成は変化します。また、一日の中でも腸内細菌叢の構成が変動を起こしています。ヒトの糞便ではバクテロイデス属で日内変動が確認されています。マウスでもラクトバチルス属やバクテロイデス属で日内変動があります。時間遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験では、これらの日内変動が消失することがわかっています。また、高脂肪食を与えたマウスでは腸内細菌叢のバランスを変化させ、腸内細菌叢の日内変動のリズムを弱めることが報告されています。

(2)腸内細菌叢の日内変動のみだれが体に与える影響

時差ボケにより体内時計が乱れた時、腸内細菌叢の日内変動はどのように変化するのでしょうか。2014年にイスラエルで発表された論文では、実験的に時差ボケを生じたマウスの便や、遠距離の飛行機旅行にでかけた人の、旅行前・旅行中・旅行後の糞便を解析すると、時差ボケがない状態と比較して腸内細菌叢が大きく変化していました。とくに増加すると肥満を生じやすくなると言われているファーミキューテスの増加が認められました。このことから、体内時計を乱さないように規則正しい生活を送ることで、腸内細菌叢が安定し肥満を生じにくくすることが示唆されます。これらの研究結果は昼夜逆転がある人や夜勤で不規則な生活をしている人が肥満を起こしやすい理由の一つと言えるかもしれません

●まとめ

・腸内細菌は、様々な病気(消化管・心臓血管病、腎臓、神経疾患など)と関連がある
・腸内細菌叢の構成は一日の中で変化する日内変動があるが、高脂肪食の摂取は日内変動を小さくしてしまう
・昼夜逆転や時差ボケは腸内細菌叢の日内変動に乱れを生じ、肥満を起こす要因となる

~時間栄養学を生活に活かそう~ (3)脂肪燃焼に効果的な運動の時間帯はいつ?

2019/12/18

時間運動学とは?

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これまで時間栄養学の内容を記してきましたが、最近では時間運動学という考え方もあります。運動を行うことも体内時計に影響を及ぼします。運動を一日の中でいつ運動を行うのが効果的か、生理的にどのような影響を及ぼすのかを考えるのが時間運動学です。

運動を行うのは食前がいいのか、食後がいいのか?

運動を行うタイミングで、食事の前後でどちらが効果的かを調べた研究成果は数多くあります。食事の前後でどちらが効果的に脂肪を燃焼させる運動として効果が高いかは、まだ一定の結論が出ていないようです。ヒトの研究では食前の運動が脂肪の酸化を促し、食後の血中の中性脂肪の値を低下させるという報告があります。一方、食後の運動は安静時のエネルギー代謝を上昇させ、体重増加が抑えられると考えられます。まだまだエビデンスが少ないですが、どちらかというと食前よりも食後の運動のほうが脂肪燃焼に効果的とする考え方が主流のようです。

脂肪燃焼に効果的な運動を運動を行うのに効果的な時間帯はいつ?

 一日の中で最も効果的に脂肪を燃焼させる時間帯はあるのでしょうか?あるとすれば朝でしょうか?夕でしょうか?
 
 マウスに輪回しをさせて運動をさせた実験では、運動をさせない群にくらべ運動をさせた群では、食事による糖の吸収が増加します。さらに運動をさせた群で朝運動をさせた群と夕に運動をさせた群で比較すると、夕に運動をさせた群の方が体重増加が有意に低いという結果でした。このことから、ダイエットを目的に運動をおこなうとすれば、朝よりも夕方に運動を行うことが効果的と考えられます。例えば「電車通勤のビジネスマンが運動不足解消のため、脂肪燃焼を目的に運動をする」としたら、夕方に一駅手前で電車から降りて、残りの距離を速歩きで帰宅すると効果的でしょう。
参考文献 

Sasaki H, Ohtsu T, Ikeda Y, Tsubosaka M, Shibata S: Combination of meal and exercise timing with a high-fat diet influences energy expenditure and obesity in mice.Chronobiol Int. 2014 Nov;31(9):959-75. doi: 10.3109/07420528.2014.935785.

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~時間栄養学を生活に活かそう~ (2)朝ごはんを抜かすとメタボがすすむ!

2019/12/18
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今回は前回の記事で記した親子の時計と深い関係がある朝ごはんについて記していきます。

親子の時計と朝ごはんの深い関係

  前回のブログでは体内にある親子の時計について記しました。体内時計は親時計からホルモンや神経伝達物質や食事の刺激などを介して、子時計に時間情報を伝えることでうまく制御されています。「食事の刺激」のうち、なかでも朝食が体内時計に大きな影響を及ぼしていることがわかってきました。さまざまな研究の中で、日本の大学生を対象にした2013年の研究内容が興味深いのでご紹介します。
 普段あまり朝食を取る習慣がない大学生を集めてきて研究した内容です。そのまま朝食を食べない状態の群と朝食を食べるようにした群の2群にわけ、2週間で心電図と血液検査で解析を行っています。心電図からは交感神経・副交感神経の活動の程度がわかります。朝食をとった群はとらなかった群と比較して、交感神経や副交感神経の日内変動のピークとなる時間が2時間程度早まることがわかりました。さらに、朝食をとった群はとらない群よりもコレステロール値(総コレステロール・LDLコレステロール)が有意に低かったことがわかりました。つまり、朝食をとることで、午前中から交感神経が活発になり、メタボリックシンドロームの原因となる悪玉コレステロールを減らせることが判明しました。逆に朝食を取らないと朝から体がシャキっと動くことができず、メタボの原因を作ってしまうことになります。
参考文献 
Yoshizaki T, Tada Y, Hida A, Sunami A, Yokoyama Y, Yasuda J, Nakai A, Togo F, Kawano Y. :Effects of feeding schedule changes on the circadian phase of the cardiac autonomic nervous system and serum lipid levels.Eur J Appl Physiol. 2013 Oct;113(10):2603-11. doi: 10.1007/s00421-013-2702-z. Epub 2013 Aug 7.

一日のリズムを作るためのに効果的な朝食の内容は?

 動物実験の結果から、体内時計をうまく調節させるには肝臓や膵臓にある子時計が関係していることがわかっています。食事により膵臓から分泌されるインスリンが多くなると、サイトカインを介して肝臓の時間遺伝子の発現が増えます。つまりインスリンを出やすくする朝食が、体内時計を動かすと言えます。具体的にはGI値が高い(=食後の血糖をあげやすい)食材である、白米やパン、うどんといった炭水化物を朝食でとると、体内時計を前進させやすくなり、ダイエットに効果的となります。
 一般的にGI値が高い食材がダイエットには不向きと考えられていますので、この内容は意外に思われるかもしれませんが、体内リズムを整え代謝を活発にするという観点からは、炭水化物を朝食でとることは重要と言えます(もちろんとりすぎはいけませんが・・・)。
また、DHAやEPAといった魚の油もインスリン機能を高めます。このことから、一日を健康に過ごす理想の朝食の組み合わせは、「ご飯と焼き魚」が一番と言えるかもしれません。

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~時間栄養学を生活に活かそう~ (1)体内時計とは?

2019/12/18
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 皆さんは「体内時計」という言葉はご存知でしょう。海外旅行に行くと時差ボケになり、眠気やだるさを感じることがあると思います。これは体内時計のリズムが狂ってしまうからです。1997年頃時計遺伝子が発見され約20年経過しました。ここから時間と体の仕組みの研究が進み、その中でも時間栄養学は栄養学の新しい分野として確立しました。

 今回から数回にわたり時間栄養学をご紹介していきたいと思います。時間と栄養の関係を知ることで、健康に過ごしていただくヒントになれば幸いです。

体内にある「親子」の時計

「時計を見なくてもお昼ごはんの前には決まってお腹がすくので、時間がだいたい分かる」ということはよく経験します。これがいわゆる腹時計です。最近の研究では腹時計以外にも体の各臓器に「時計」があることがわかってきました。そして各臓器にある時計は脳内にあるおおもとの時計によって制御されていることがわかっています。この脳内の時計が「親時計(中枢時計)」で、各臓器にある時計が「子時計(末梢時計)」と言われます。

 それぞれの臓器にある子時計は胃腸・肝臓・心臓・腎臓・筋肉など、あらゆる組織に存在しています。そして一日の中でもリズム(日内変動)をもっています。たとえば肝臓では糖や脂肪の合成・分解やエネルギー代謝に日内変動が見られます。そしてこれらの子時計は、脳の視床下部にあるSCN:suprachiasmatic nucleus という部位にある親時計によって制御されています。親時計は、外界からの光刺激を目の網膜を通して受け入れます。親時計は親時計からホルモンや神経伝達物質や食事の刺激などを介して、子時計に時間情報を伝えています。この親時計からの刺激をうけて、体の各所の子時計に作用して睡眠と覚醒・エネルギー代謝などに日内リズムをもたらすことがわかっています。そしてこの約24時間の日内変動をもたらしてくれるのは、各臓器の細胞に存在する時計遺伝子です。この時計遺伝子がなくなると日内変動が消失してしまうことがわかっています。

親子の時計(体内時計)のことを知れば健康に過ごせる!

 これまで病気に対し、食事や運動・お薬の治療で対応しています。今後もこれが変わることはありません。しかし、時間という概念を加えることで、さらに健康増進が期待できます。これが時間栄養学・時間運動学といった考え方です。今後数回に渡っていくつかの項目を取り上げていこうと思います。
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